身内が亡くなった後、遺品の整理や未払金の支払いを「早めに済ませてあげたい」と思うのは自然な心理です。しかし、よかれと思って行ったその行為が、法律上「相続を認めた(単純承認)」とみなされ、後から借金が判明しても相続放棄ができなくなるリスクがあります。
相続放棄を検討している、あるいはまだ迷っている段階で「やっていいこと」と「やってはいけないこと」の境界線を解説します。
1. 厳禁!「遺産の処分」は相続を認めたことになります
亡くなった人の財産を勝手に動かしたり、自分のものにしたりする行為は、相続する意思があるとみなされます。
- 売却・譲渡:不動産、車、貴金属などを売ったり、誰かにあげたりすること。
- 債権の回収:亡くなった人が誰かに貸していたお金を、自分の懐に回収すること。
- 生命保険の注意点:「受取人」があなた個人に指定されている保険金を受け取るのは、あなたの固有財産なので問題ありません。しかし、受取人が「亡くなった本人」になっている保険金の手続きをすると、遺産の処分に該当する恐れがあります。
2. 「保存行為」なら許される場合があります
遺産の価値を守るための最低限の管理(保存行為)であれば、後で相続放棄をすることが可能です。
- 衛生・安全上の処置:冷蔵庫の中の生ものを処分する、家が壊れそうなので急ぎで補強するといった、現状維持のための行動は許容されます。
- 【重要】費用の出し方:管理にかかった費用を亡くなった人の預金から出すと「遺産の処分」と疑われるリスクがあります。まずは自分の財布から支払い、領収書を保管しておくのが最も安全です。
3. 支払い関係の落とし穴
亡くなった後に届く請求書への対応には、細心の注意が必要です。
| 項目 | 判断と注意点 |
|---|---|
| 公共料金の自動引き落とし | 問題ありません。生前の契約が継続しているだけなので、放置していても「処分」にはあたりません。 |
| 督促状への支払い | 要注意。遺産の預金から支払うとアウトです。どうしても支払うなら、自分の資産から「立替払い」として処理しましょう。 |
4. 並行して「遺言書」を必ず探す
遺産の処理や放棄を考える前に、そもそも「遺言書」があるかどうかで全ての手続きが変わります。
- 遺言が最優先:遺言書があれば、遺産分割協議を行わずに済む場合も多いです。自宅の金庫や、公証役場(公正証書遺言)、法務局(自筆証書遺言保管制度)に預けられていないか、まずは確認しましょう。
「この荷物を捨てたら放棄できなくなる?」「葬儀費用を故人の貯金から出しても大丈夫?」といった疑問は、実務上非常にデリケートな判断を要します。一度「単純承認」とみなされてしまうと、その後に多額の借金が見つかっても、原則として取り消すことはできません。
後悔しないためにも、具体的な行動を起こす前に、ぜひ一度専門家へご相談ください。あなたの状況に合わせた、安全な遺品整理と手続きの進め方をアドバイスいたします。