会社経営者にとって、避けて通れないのが「事業承継」の問題です。後継者に株式を集中させようとしても、会社が成長して株価が上がっているほど、他の相続人の「遺留分(最低限の取り分)」を侵害してしまい、多額の金銭を請求されるリスクが高まります。
円滑な承継を妨げる「遺留分トラブル」を防ぐための有力な手段である、経営承継円滑化法の民法特例について解説します。
1. 民法の原則:遺留分の放棄はハードルが高い
通常、生前に遺留分を放棄してもらうには、家庭裁判所の許可が必要です。しかし、「本人の自由意思」や「放棄に対する見返り」が厳格に審査されるため、後継者以外の親族に納得してもらうのは容易ではありません。
2. 経営承継円滑化法による「2つの特例」
事業承継を目的とする場合、特定の条件を満たせば以下の特例を利用して、将来の遺留分トラブルを封じ込めることができます。
- 除外合意:後継者に贈与した株式を、遺留分を計算するための基礎財産から「完全に除外」する仕組みです。会社が将来どれだけ成長しても、他の相続人はその株式分について権利を主張できなくなります。
- 固定合意:株式の価値を「合意時点の時価」に固定する仕組みです。承継後に後継者の努力で株価が上がっても、遺留分の計算上は「昔の安い価値」で計算されるため、後継者の努力が報われます。
3. 特例を利用するためのステップ
この制度はメリットが大きい反面、厳格な手続きが必要です。一つでも欠けると無効になる恐れがあるため注意が必要です。
- 当事者の合意:現経営者、後継者、および他の推定相続人全員の合意を得る。
- 経済産業大臣の確認:適用条件を満たしているか、大臣の確認を受ける。
- 家庭裁判所の許可:合意から1ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立て、許可を得る。
4. 税制や金融面のバックアップも
経営承継円滑化法は、遺留分対策だけではありません。贈与税や相続税の支払いを猶予・免除する「事業承継税制」や、承継時の資金調達を支援する金融支援策などもパッケージ化されています。
事業承継における遺留分対策は、経営者だけでなく残される家族全員の将来に関わる問題です。「自分が元気なうちに」対策を講じることで、会社と家族の両方を守ることができます。制度の利用には複雑な法務・税務の知識が必要ですので、まずは専門家である弁護士へご相談ください。貴社の状況に合わせた最適な承継プランをご提案いたします。