交通事故や店舗の損壊、あるいは契約不履行などによって営業ができなくなった際、その損失をどう計算するかは非常に難しい問題です。
日本の法制度では「差額説」という考え方をとります。これは、「もし事故や不法行為がなかったら得られたはずの状態」と「現在の状態」を比較し、その差を損害とみなすものです。今回は、この考え方に基づく営業損害の計算ルールを整理します。
営業損害 = 売上の減少額、ではありません
売上が100万円減ったからといって、損害額がそのまま100万円になるわけではありません。なぜなら、休業したことで「支出を免れた経費」も存在するからです。
- 売上の減少:営業していれば得られたはずの収益。
- 減少した経費(変動費):休業したことでかからなくなった電気代・水道代などの光熱費、材料費、広告宣伝費など。
差額説の観点からは、これらの「支出を免れた分」は損害から差し引く必要があります。
休業しても発生し続ける「固定費」の扱い
一方で、営業を止めていても支払わなければならない費用があります。これが「固定費」です。
- 店舗や事務所の家賃(賃料)
- 正社員の給与(休業手当等を含む)
- リースの支払い、減価償却費
これらは売上がゼロになっても発生し続けるため、損害として認められるのが一般的です。算定式に直すと、以下のようになります。
営業損害 =(減少した売上高)ー(支出を免れた変動費)
※または「得られたはずの利益 + 発生し続けた固定費」と考えることもあります。
業種による算定の難しさ
理論上はシンプルですが、実務では「何が変動費で、何が固定費か」の区分けが非常に困難です。
- 飲食店の場合:材料費は変動費ですが、基本料金分の光熱費は固定費に近い扱いになります。
- 製造業の場合:工場の稼働状況によって人件費や燃料費の扱いが複雑に分かれます。
営業損害の立証には、確定申告書、決算書、試算表などの膨大な資料を読み解き、説得力のある計算モデルを提示しなければなりません。相手方の保険会社から提示された金額が妥当かどうか、あるいは自社で請求を立てる際の見通しについて、ぜひ一度弁護士へご相談ください。