トラブルが解決し、相手と合意に至った際、その内容を書面に残すことは「蒸し返し」を防ぐために極めて重要です。このとき、自分たちで作成する「合意書(私文書)」で済ませるか、あるいは「公正証書」を作るべきか、悩まれる方も多いのではないでしょうか。
今回は、それぞれの違いと、状況に応じた使い分けについて解説します。
1. 通常の合意書(示談書・契約書)の効果と限界
当事者同士で署名・押印して作成する一般的な書類です。
- メリット:費用がほとんどかからず、郵送のやり取りだけでも即座に作成できるスピード感があります。
- 証拠としての力:後日「そんな約束はしていない」と揉めた際、裁判で有力な証拠となります。
- 限界:もし相手が支払いを怠った場合、実際に給与などを差し押さえる(強制執行)ためには、まず裁判を起こして勝訴判決を得る必要があります。
2. 公正証書の強力なメリット
公証役場で公証人が作成する公的な書類です。通常の合意書にはない強力な特徴があります。
- 裁判なしで差し押さえが可能:「強制執行認諾文言」を入れておくことで、支払いが滞った際に裁判を経ることなく、即座に相手の預金や給与を差し押さえることができます。
- 原本保管の安心感:書類の原本は公証役場で厳重に保管されます。万が一、手元の控えを紛失したり、相手に破り捨てられたりしても、再発行が可能です。
- 高い信頼性:公証人が本人の意思を確認して作成するため、後から「無理やり書かされた」といった無効主張が通りにくくなります。
3. 公正証書のデメリットと注意点
効果が高い反面、作成には手間とコストがかかります。
- 手間と時間:原則として当事者双方が平日の昼間に公証役場へ足を運ぶ必要があります(代理人を立てることも可能ですが、別途書類が必要です)。
- 費用:目的となる金額(法律行為の手数料)に応じて、数千円から数万円単位の公証人手数料が発生します。
4. どのように使い分けるべきか?
全ての合意を公正証書にする必要はありません。内容の重要度や緊急性に応じて使い分けましょう。
- 公正証書が向いているケース:離婚の養育費や金銭の貸し借りなど、「長期にわたる支払いの約束」がある場合。
- 通常の合意書が向いているケース:一括払いで即座に解決する場合や、とにかく急いで合意の事実を残したい場合。
- 併用パターン:まずは急ぎで通常の合意書を作成し、「後日、これと同じ内容で公正証書を作成する」と約束しておく方法も有効です。
公正証書は非常に強力な武器になりますが、記載する文言に不備があると、せっかくの手続きも強制執行に使えない「不完全なもの」になってしまいます。確実に権利を守るためには、作成前に弁護士に文案の監修を依頼することをお勧めします。