裁判で勝訴したり、公正証書を作成したりしても、相手方に資産がなければ一円も回収することはできません。最も厄介なのは、話し合いや裁判の最中に相手が預金を下ろしたり、不動産を名義変更したりして「資産隠し」を図るケースです。
このような「逃げ得」を許さないための強力な法的手段、「民事保全手続」について解説します。
1. 資産をフリーズさせる「民事保全手続」
民事保全とは、裁判の結論が出る前に、相手方の資産を「仮に」差し押さえて動かせなくする手続きです。これにより、いざ強制執行をする段階になって「中身が空っぽ」という事態を防ぎます。
- 仮差押え:預貯金や不動産、給与などを対象に、勝手な処分を禁止します。
- 仮処分:金銭以外の権利(建物の明け渡しなど)を守るために、現状を維持させる手続きです。
2. 手続きを利用するための条件と注意点
民事保全は非常に強力な手続きであるため、裁判所が認めるには一定の条件をクリアする必要があります。
- 立証の必要性:「裁判をすれば勝てる見込みがある」ことを、契約書などの資料で示す必要があります。
- 保全の必要性:「今すぐ差し押さえないと、資産を隠される恐れがある」という緊急性を説明しなければなりません。
- 担保金の納付:万が一、こちらの請求が不当だった場合に相手が被る損害を保証するため、裁判所に一定の「担保金(供託金)」を預ける必要があります。※金額は請求額の1〜3割程度が目安ですが、事案により異なります。
3. 裁判や調停の段階に応じた「保全」の種類
解決を目指す手続きの種類によって、利用できる保全制度が異なります。
| 状況 | 利用できる手続き |
|---|---|
| 民事訴訟(貸金、損害賠償等) | 民事保全(仮差押え・仮処分) 訴訟提起を前提とした、最も一般的な保全です。 |
| 民事調停・家事事件(離婚等) | 調停前・審判前の保全処分 家庭裁判所などの手続きに付随して行われる保全です。 |
4. 資産を隠されてしまった後の「最終手段」
もし保全が間に合わず、資産を隠されてしまった場合でも、あきらめるのはまだ早いです。近年の法改正により、回収の可能性を高める新制度が導入されました。
- 第三者情報取得手続(情報の照会):裁判所を通じて、銀行、市役所、日本年金機構などから、相手の預貯金口座や勤務先の情報を直接取得できる制度です。
- 交渉中の揺さぶり:相手が頑なに資産状況を明かさない場合は、交渉を打ち切って訴訟や保全手続へ移行する姿勢を見せることで、相手にプレッシャーを与えることも有効な戦略となります。
債権回収の勝敗は、相手に「準備(資産隠し)」をさせる前に動けるかどうかにかかっています。相手が怪しい動きを見せ始めた、あるいは最初から逃げる可能性が高い場合は、訴訟よりも先に「保全」を検討すべきです。
「担保金はいくら必要か」「今の証拠で差し押さえができるか」など、具体的な見通しについてはお早めにご相談ください。確実に回収するための戦略を、共に構築していきましょう。