裁判で勝訴判決を得たり、調停で合意したりして「相手の支払義務」が確定しても、それで終わりではありません。相手が素直に支払わない場合、最終的には相手の財産を「差し押さえる(強制執行)」必要があります。
しかし、差し押さえには「相手がどこの銀行を使っているか」「どこの会社に勤めているか」をこちらで特定して裁判所に伝えなければならず、これが高い壁となっていました。この問題を解消するために導入された「第三者からの情報取得手続」について解説します。
1. 裁判所を通じて調査できる「4つの財産」
改正民事執行法により、裁判所が銀行や役所などの第三者に対して、債務者の財産情報を開示するよう命じることができるようになりました。
- 預貯金・振替社債等:各銀行や証券会社から、支店名や残高の回答を得られます。
- 給与(勤務先):市町村や日本年金機構等から、勤務先の情報を得られます。(※養育費や身体損害の賠償請求などに限定)
- 不動産:法務局から、所有している土地・建物の情報を得られます。
- 上場株式・国債等:証券会社等から、保有している銘柄等の情報を得られます。
2. 手続きを利用するための条件
この強力な調査権を使うには、いくつかのハードルを越える必要があります。
- 債務名義があること:確定判決、和解調書、調停調書、公正証書(執行証書)など、権利が公的に証明されている必要があります。
- 不奏功(ふそうこう)の要件:「すでに強制執行を試みたが足りなかった」あるいは「知っている範囲では差し押さえるべき財産が見当たらない」といった事情が必要です。
- 勤務先情報の特例:勤務先を調べるには、まず「財産開示手続(後述)」を先に行う必要があり、さらに請求できる債権の種類も「養育費などの扶養義務」や「生命・身体の損害賠償」に限られます。
3. 成功の秘訣は「スピード」
この手続きの流れには、債権者の権利を守るための工夫があります。
- 申立て:債権者が裁判所に調査を依頼。
- 照会:裁判所が銀行等へ情報を聞き出す。
- 回答:銀行等が裁判所へ回答し、その写しが債権者に届く。
- 差し押さえ:ここが重要です!債務者に「調査したこと」が通知されるのは、回答から約1ヶ月後です。
債務者にバレると、預金を引き出されるなどの「財産隠し」をされる恐れがあります。情報が届いたら、相手に通知が行く前に素早く差し押さえの手続きを申し立てることが鉄則です。
4. 逃げ得を許さない「財産開示手続」の強化
かつての財産開示手続(本人を裁判所に呼んで財産を白状させる手続き)は、無視しても罰金程度で済み、実効性が低いと言われていました。しかし現在は罰則が大幅に強化されています。
- 刑事罰の導入:正当な理由なく欠席したり、嘘をついたりすると「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」という前科がつく刑罰の対象になりました。
- 心理的プレッシャー:警察による逮捕の可能性も出てきたため、無視し続けることが困難になっています。
「判決を取ったけれど、相手がどこに貯金しているか分からない」と諦めていた方にとって、この新制度は非常に強力な武器になります。特に預貯金の調査は、対象の銀行をある程度絞り込めれば、残高の有無を効率的に把握できます。
どの財産から調査すべきか、どのようなスケジュールで差し押さえに動くべきか。確実な債権回収を目指すために、ぜひ一度専門家へご相談ください。