昭和初期まで、日本の相続制度は家督相続制度をとっており、長男が家督として遺産の全てを相続するという制度になっていました。
その後、法律が改正され、均分相続という、長男以外の家族も相続人となるようになり、現在では、配偶者が2分の1、他の2分の1を子が頭数で分けるというような形の制度になりました。
しかし、昔から続く家や農家などの場合、いまだ家督相続のような意識もあり、実家を守る長男と独立した他の兄弟姉妹とで争いがおこることもしばしばあります。
他方で、長男など家を継ぐ人の方が均分相続を知っていて、どうしても他の兄弟姉妹に何か渡さなければいけないのか悩み、そもそも遺産分割協議をしない場合もあります。
では、現在の法律において、家督相続・長子相続のようなことは可能なのでしょうか。
遺産分割協議で長子相続を行うのは可能
そもそも遺産分割協議というのは、遺産の分け方を話し合うことですので、民法の定めによる必要は必ずしもありません。
相続人全員が納得しさえすればよく、相続人全員が、長男など家を継ぐ人に遺産を集めるという意向で一致すれば、遺産分割協議で長子相続のような結論とするのは可能です。
遺言で長子相続を行うのも可能(ただし遺留分に注意)
また、親が亡くなる前に、遺言を作成し、全ての遺産について長男など家を継ぐ人に相続させることも可能です。
遺言は遺言者の自由に定められますので、民法の法定相続分の制限はありません。
ただし、子などの相続人には遺留分(一部の相続分について後日金銭請求できる制度)がある場合があり、遺言者が亡くなった後に、争いになってしまう場合があります。
遺言の際にはそうならないように、遺留分権者に家庭裁判所で手続きしてもらい遺留分を放棄してもらっておいたり、生前贈与などで一部渡しておいたりするなどの準備が必要な場合があります。
遺言もなく遺産分割協議で合意できない場合は?
遺言や遺産分割協議が思ったように成立しない場合など、どうしても他の相続人が納得しない場合には、法律で均分相続が定められている以上、全てを長男などが継ぐことは難しくなります。
ただし、特別受益(例えば、独立した相続人が家を買ってもらっているなど)や寄与分(家に残った長子などが遺産の保持に相当程度貢献しているなど)で調整はなされますので、場合によっては、長男などの家を継ぐ方が多く相続する場合もあります。
家督相続のような相続を実現させるには
以上のとおり、家督相続のような相続を実現させたい場合には、まず、親が生きている間(かつ判断能力に問題がない間)に、遺言(特に公正証書遺言)を作成してもらうべきでしょう。また、その際、遺留分に配慮した形で遺言しておくことも大切です。
さらに、生前から、財産の管理状況を開示しておいたり、死後どうなるかについても話をしておくなど、一定の信頼を確保しておくことも重要です。
信頼関係があれば、いざ遺産分割協議を行う場合でも、話が割れない可能性が高まります。
相続については、実は生前からの準備も大切になります。遺産でもめそうな場合には、早めに弁護士に相談しておきましょう。