成年後見人制度というものを聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが,認知症や障害などで判断能力がなくなってしまった場合,裁判所で手続をすることで成年後見人という方が就任し,本人の代わりに物事の判断や契約などの手続を行うことがあります。
ただ,成年後見人は認知症などがひどくなって判断能力がなくなった時に選任されるものですので,ご自身が万が一,認知症などになってしまい,それがひどくなったらどうしようという不安がある場合の準備などでは利用できないものになっています。
つまり,万が一の時には成年後見人を申立ててほしい旨,どなたか親族に頼んでおくことはできるでしょうが,裁判所で誰を成年後見人にするかは分からず,また,処理方針などにも意見できない状態になってしまうため,ご自身の考えを十分には反映できなくなってしまいます。
そこで,任意後見契約という制度が準備されています。今回は任意後見契約の説明と,法定後見(裁判所で成年後見人をつける場合)との違いなどをお話ししたいと思います。
任意後見契約とは
任意後見契約とは,判断能力があるうちに予め本人が後見人となってほしい人と契約をしておくことで,認知症などになってしまった場合の事務処理等を依頼しておく契約です。
判断能力があるうちにご自身で契約するものですので,どなたが後見人となるのか,事務などの処理方針などもご自身で決定しておくことが可能になります。
任意後見契約の手続
任意後見契約を行う場合には,公正証書を作成して契約する必要があります。
また,法務局で任意後見契約に関する登記をしておく必要もあります。
そして,いざ判断能力が落ちてきたときに,ご自身や後見人になる人などが裁判所に後見監督人の選任を申立て,後見監督人が選任されると,任意後見契約の効力が発動し,後見人が事務処理を開始することになります。
法定後見との違い
任意後見契約は,法定後見と違い,後見人の選任や処理内容について契約で定めておくことができますが,行う範囲はあくまで代理などによる事務処理のみです。
法定後見の場合には,本人が行った取引などについて後見人が取り消すなど監督ができますが,任意後見契約では取り消しなどはできず,ご本人が行った取引は有効のままになります。
したがって,ご本人が誤った取引や契約などをしてしまう状況になってしまうと,任意後見契約の効力が発動していたとしても,裁判所に申立てをして法定後見に移行することもあります。
なお,後見人や処理内容のみならず,後見人の報酬なども任意後見契約では契約で決められますが,法定後見では裁判所が決定します。
任意後見契約の利用方法
高齢になったなど,今後について不安がある場合,特にご自身の資産管理について考えがあり,元気なうちに決めておきたいという場合,任意後見契約をうまく利用するのも良い方法です。
また,任意後見契約の効力発生前の段階での事務に委託や,遺言・信託など,他の手続と組み合わせることによって,ご自身の思いを実現できることもあります。
そのようなお悩みがある方は弁護士に相談してみましょう。